インターネットミニ染織講座
紕帯のできるまで(生地選定〜生地を染める<引き染め>)
奈良時代衣装8号は、使われた染織技術の見事さだけでなく彩色豊かな華やかな雰囲気を持つ衣装です。特に美術館等に貸付する際の人気が高く、一方で唐衣・表着・裳・紕帯という構造から、マネキンへの着付展示というトータル的な見せ方が必要となりその作業が衣装の傷みを加速させる大きな原因になっていました。
当協会では、衣装の中でも特に今後貸し付けに耐えられない紕帯に着目し、レプリカを制作する取り組みをはじめました。今後はこのレプリカを代用することによってオリジナルの保全を行なう考えです。
奈良時代衣装8号の紕帯 (オリジナル)
紕帯のオリジナルは、画像の通り基布(羅)の繊維が経年劣化により切れて下生地がみえており、刺繍部分によりかろうじて基布が留まっている状態です。今まで補修・修繕を繰り返していましたが、もはや手を加えること自体が基布に大きなダメージを与えてしまいます。
※クリックで拡大します。
1.生地選定
奈良時代衣装8号の紕帯の詳細は保管資料によると「紋羅 刺繍玉」となっています。つまり紋の入った
羅という生地に、刺繍が施されている帯ということです。刺繍玉とは、刺繍を施した柄の中央にビーズのよ
うな小さい玉がついていることからそのように称したと考えられます。(上記紕帯画像右中央参照)
保管資料をもとにオリジナルの基布に近い、西陣で織られた「本羅」という織物を選定しました。
「羅」は縦糸を絡み合わせた間に緯糸を通す捩織(もじりおり、絡み織ともいう)という技法を用いた織物
で、古くは正倉院の古代裂にも残っています。この織物は経糸が複雑に絡み合い、編物に似た外観です。
羅を織るには経糸を捩らせるための振綜(ふるへ)という特別な装置を使いますが、操作に手間がかかり
熟練した職人でも一日に30センチ程度しか織ることができません。(工程は後日更新予定)
2.生地を染める(引き染め)
選定した生地を染めていきます。今回使用する染めの技法は「引き染め」です。京都市中京区の引き染め工房にご協力いただきました。
引き染めは、まず反物の端を張り木で挟み、伸子で生地を引き伸ばして張るように広げ、地入れの作業を施し準備します。そして調合された染料液を引き刷毛と呼ばれる専用の刷毛に含ませて一気に生地を染めていき、表裏を返しながら染料液をしっかりと染み込ませます。
引き染めの利点は広い面積を染色できることですが、気象条件や生地により染料にムラが生じやすいため、豊富な知識と熟練した技が必要な大変難しい技術です。
(1)端縫い
まずは準備作業です。「本羅」は薄い生地であるため、直接張り木で挟み伸子を張ると生地を傷つけてしまうことから、別の生地を使って端を縫う作業を行ないます。
(2)引張り
端縫いされた生地の両端に張り木を取り付け、片方ずつ柱に縛りつけて生地を張った状態にしたあと、生地の裏側に伸子を打っていきます。
こうして生地は経・横に張り、一切シワのない状態となります。
(3)地入れ
染める前に布海苔(ふのり)を溶かして液状にしたものと大豆をすりつぶして作った豆汁を混ぜた液(地入れ液)を刷毛を使って生地に引いていきます。
これは染料液を生地に浸透しやすくさせると共に、染料液がにじんだり、染めムラがでないようにするための作業です。
布海苔(ふのり) |
大豆から豆汁 |
布海苔と豆汁を合わせた地入れ液 |
表面だけでなく裏面も引いていく |
(4)色合せと染料液の調合
次に染める色を決めます。オリジナルの色に近づけるために職人が何度も調合を重ね2種類の色の候補を提示し、当協会学芸員等スタッフ全員がオリジナルを何度も確認しながら協議して最終的に色を決定しました。
色が決まれば早速染料液を調合。量りに容器をセットして、容量を確認しながら手早く染料、助剤等を配合していきます。
色決定(画像左下に2種類の色見本) |
染料 |
調合 | 生地の端に決定した染料を置く |
(5)引き染め
いよいよ引き刷毛で染料液を引いていきます。表面を引いたあとは裏面に返して同様に引いていきます。染料液がしっかりと馴染むよう様子を見ながら引く回数を決めていきます。
この日の工程は、
→表面に染料液を引く |
次回は、蒸しの作業です。
<今回の道具>
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