インターネットミニ染織講座
衣装復元制作・江戸時代初期2号(完成)
15.完成
令和4年4月の制作決定から約2年をかけ、ついに「江戸時代初期2号 白縮緬地竹垣団扇文様振袖」の復元衣装(これからは「新衣装」と呼びます)が令和6年3月19日、完成しました。糸の復元制作から、作業可能な職人とその道具の確保など様々な困難に直面しながらも、無事制作を終えることができました。
では、さっそく新衣装を見ていきましょう。
完成した新衣装がこちらです。
完成した新衣装 |
旧衣装と新衣装(全体) |
(上段)旧衣装、(下段)新衣装
(旧衣装) 【制作年】 昭和6年〜8年(1931年〜1933年) 【衣装情報】 (生地)縮緬 (技術)撚糸、製織、引染、手描友禅、金彩、 墨絵、刺繡 (復元)江戸時代初期の風俗を記した文献「還魂紙料」や当時の染織品を参考に復元した。 【制作方法】 下絵→地染め→下絵→糊置き→手描友禅→金彩→ 刺繡→仕立て 【制作者】 制作 染織講社 時代考証監修 関 保之助/猪熊浅麻呂/出雲路通次郎/江馬 務/吉川観方/高田義男/猪飼嘯谷/野村正治郎 調整 松下装束店/荒木装束店/田装束店 |
(新衣装) 【制作年】 令和4年〜令和6年(2022年〜2024年) 【衣装情報】 (生地)一越縮緬 (技術)撚糸、製織、引染、手描友禅、金彩、 墨絵、刺繡 (復元)旧衣装をもとに復元した。 【制作方法】 撚糸→製織→引染→手描友禅→金彩→墨絵→刺繡→仕立て 【制作者】 制作 公益社団法人京都染織文化協会 監修 京鹿の子絞振興協同組合 協力 京都府織物・機械金属振興センター 撚糸・製織 川八工場 川戸洋祐(京丹後市弥栄町) 引染 大前引染工場(京都市右京区) 糊置 伝統工芸士 二保明(京都市右京区) 手描友禅 伝統工芸士 松村勲(京都市北区) 墨絵 伝統工芸士 廣野文雄(京都市右京区) 金彩 渡邊 久(京都市中京区) 刺繍 伝統工芸士 杉下晃造 西山亜衣子(京都市北区) |
─制作を終えて─
令和4年3月から準備を始め、令和4年4月より生地を作るところから制作が始まりました。復元衣装制作に用いる道具の確保が難しく、かつ作業できる職人さんが少ないという工程も存在し、制作が難しい衣装でしたが様々な職人さんのお力添えもあり、無事に完成することができました。
今回の復元制作では、京都府織物・金属機械振興センターによる生地の分析から、江戸時代から伝わる八丁撚糸機で約2000〜3000回撚りをかけ、精練で糸そのものが縮んでシボができる伝統的な技法で糸を制作しました。縮緬の一大産地である丹後地方は、多湿を好む絹糸が風土に合い、江戸時代から脈々と技術の継承が行われており、現代でも伝統的技法が受け継がれていることを、生地制作を通して確認することができました。
墨絵は、下書きなしのフリーハンドで生地に絵柄を描いていく作業です。しかし、旧衣装に施された墨絵は線の描写が特に細く、まずはこの作業が可能な職人さんと、作業で使う極細の面相筆を探すところから着手しました。その結果、幸運にも御年85歳の熟達された職人さんに依頼することができ、極細の面相筆も職人さんの手持ちの筆から見つけることができましたが、今回、この職人さんに出会えなければ新衣装の制作を断念せざるを得ない状況にあったことから、職人の高齢化による技術継承が危機的状況であること、高度な技術が使われた衣装の復元制作は将来的には出来なくなってしまうことを痛感しました。
今後も染織祭衣装復元制作を通して、染織技術の継承と啓発に引き続き取り組んでまいります。