インターネットミニ染織講座
衣装復元制作・桃山時代6号(完成)
10.完成
平成29年度4月の着手から3年をかけ、令和2年3月30日、桃山6号の複製(これからは「新衣装」と呼びます)が完成、納品されました。制作を進めていく中で、現場を取り巻く様々な事情に直面し、制作に関わる方々と常に最良の方法を考えながら進めてまいりました。
では早速新衣装を見ていきましょう。
完成した新衣装 |
新衣装(右)と旧衣装(左)。新衣装は絞りが新しいため、 伸縮により寸法が短くみえる。 |
(上段)旧衣装、(下段)新衣装
(旧衣装) 【制作年】 昭和6年〜8年(1931年〜1933年) 【衣装情報】 (生地)紋綸子 (技術)染め分け、鹿の子絞り、摺箔、刺繍 (復元)実在する時代衣装を参考に作成した。 【制作方法】 下絵→染め分け→絞括→染色(桶絞り)→金彩→刺繍→仕立て 【制作者】 制作 染織講社 時代考証監修 関 保之助/猪熊浅麻呂/出雲路通次郎/江馬 務/吉川観方/高田義男/猪飼嘯谷/野村正治郎 調整 松下装束店/荒木装束店/田装束店 |
(新衣装) 【制作年】 平成29年〜令和2年3月(2017年〜2020年) 【衣装情報】 (生地) 紋綸子 (技術) 染め分け、鹿の子絞り、摺箔、刺繍 (復元) 旧衣装をもとに復元した。 【制作方法】 下絵→染め分け→絞括→染色(桶絞り)→湯のし・蒸し・ほどき→金彩→刺繍→仕立て 【制作者】 制作 公益社団法人京都染織文化協会 監修 京鹿の子絞振興協同組合 下絵 伝統工芸士 後藤和弘 染め分け 伝統工芸士 木純一 染色 伝統工芸士 太田英雄 絞括 伝統工芸士 川本和代 金彩 伝統工芸士 田中禎一 刺繍 伝統工芸士 杉下晃造 |
─制作を終えて─
復元制作が決まり、職人選定のため監修者となる京鹿の子絞振興協同組合の部会長の皆さんに集まって頂いたのは平成29年2月のことでした。同年4月より制作がスタートし、準備作業に約1年、鹿の子絞り作業に約1年、金彩・刺繍作業に約1年と3年の歳月をかけ令和2年3月30日に完成しました。
旧衣装は完全な誂えで、模様の形状は手描きで作られています。制作作業を進めていくにあたり、当協会・監修者・職人の間で次の通り申し合わせをしました。
1.鹿の子絞り
旧衣装の鹿の子絞りは指定された範囲の中を埋めていくというやり方。現代の職人は型に沿って絞るやり方で行っており、前述のやり方は経験がなく、出来ないとのことから、新衣装の鹿の子絞りは型を使って行う。
2.金彩
旧衣装の摺箔の模様は手彫りの型紙を使っており、連続する模様でも微妙に形状が異なっている。現代の型はコンピュータで制作するため完璧な連続模様が出来上がるが、旧衣装の微妙に形状が異なった模様を忠実に再現して制作。
3.刺繍
染色と同様、本来の色である生地内側の刺繍糸の色目により糸の色を決定。
現代のきものの制作は、そのほとんどが忠実な型に従い行われます。対して旧衣装にみられる制作方法は、職人の美意識や技術に託された部分が多く、それにより自由な表現が可能であったのではないかと推測します。鹿の子絞りを例に挙げると、旧衣装の「指定された範囲を絞りで埋める」方法では絞りの数が均等にならず、どうしても配列に乱れが生じます。このような不完全さやゆらぎは、良く言えば衣装の味になり、1点ものであることを証明します。新衣装の「型通りに絞る」方法では、絞りの数や列が均一になり、整然とした美と調和が生まれます。衣装の「味」と「整然とした美」、新旧は一見全く同じ色柄の衣装に見えますが、制作した時代による価値観の違いが垣間見れるものとなりました。これも次代に技術を伝える上で、とても重要なことだと思います。
新旧衣装は、お披露目となる展示の場を設けることを検討しており、今後HPやFBで情報をお伝えしていきます。どうぞお楽しみに。
平成29年2月、初めて旧衣装と対面。皆様、お疲れさまでした。 |