インターネットミニ染織講座
衣装復元制作・室町時代5号(完成)
8.完成
令和3年4月の制作決定から1年かけ、令和4年3月24日、室町5号の複製(これからは「新衣装」と呼びます)が完成しました。制作を進めていく中で、旧衣装が制作された昭和初期と現代の制作方法の違いや、現代の制作現場を取り巻く様々な事情に直面しながら、職人たちと常に最良の方法を考えながら進めてまいりました。
では早速新衣装を見ていきましょう。
左が旧衣装、右が反物の新衣装 |
衣桁掛けした新衣装はこちら
完成した新衣装 |
新衣装(左)と旧衣装(右)旧衣装の裏側の生地を見て染色。 |
(上段)新衣装、(下段)旧衣装
(旧衣装) 【制作年】 昭和6年〜8年(1931年〜1933年) 【衣装情報】 (生地)練緯 (技術)染め分け、絞り、辻が花 (復元)現存する小袖裂から全体の柄構成を推測し小袖に再現した。 【制作方法】 生地制作→下絵→染め分け(糸入れ)→染色→辻が花→仕立て 【制作者】 制作 染織講社 時代考証監修 関 保之助/猪熊浅麻呂/出雲路通次郎/江馬 務/吉川観方/高田義男/猪飼嘯谷/野村正治郎 調整 松下装束店/荒木装束店/田装束店 |
(新衣装) 【制作年】 令和3年4月〜令和4年3月(2021年〜2022年) 【衣装情報】 (生地) 練緯 (技術) 染め分け、絞り、辻が花 (復元) 旧衣装をもとに復元した。 【制作方法】 生地制作→下絵→染め分け(糸入れ)→染色→湯のし・蒸し・ほどき→ 辻が花下絵・仕上げ→仕立て 【制作者】 制作 公益社団法人京都染織文化協会 監修 京鹿の子絞振興協同組合 協力 京都府織物・機械金属振興センター 整経 小牧繁樹 織機 田茂井康博(織元金重) 下絵・辻が花 伝統工芸士 松本忠雄 染め分け 伝統工芸士 山岸和幸 湯のし蒸しほどき 伝統工芸士 佐伯和彦 染色 伝統工芸士 太田英雄 仕立 藤井絞 |
─制作を終えて─
令和3年も新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発令されたことで、制作に着手できない状態がおよそ一か月続きました。宣言が明けると同時に早急に準備を進めましたが、それから職人の皆さんが集まって作業手順を確認する打合せが開かれたのは6月下旬。スケジュールより大幅に遅れての作業開始となりましたが、職人の尽力により急ピッチで行われ、令和4年3月24日に完成しました。
旧衣装は完全な誂えで、模様の形状は手描きで作られています。制作作業を進めていくにあたり、当協会・監修者・職人の間で次の通り申し合わせをしました。
1.練緯の対応
現状のままでは絞りを施すのが難しいため、湯のしでセリシン※を落とし、生地の状態を確認する。
※絹繊維の周りを覆う蛋白質。高温水に浸すと溶けて除去が可能になる。除去すると繊維が柔らかくなり光沢が増す。
2.染め
旧衣装の内側の色を参考に色見本を決定する。
3.その他
旧衣装にみられる、作業ミスや柄落ちなどは修正して新衣装に反映させる。
今回の復元制作では、現代では制作されていない絹織物『練緯』を復元しました。髪の毛よりも細い糸を使い、天候や温度に影響を受けながら織り進めるのは大変困難な作業でした。完成した生地は、シャリ感のある薄い羽衣のような生地。現代の職人にとっては始めて扱う生地であるため、戸惑いの声が上がりました。特に絞りの工程では、通常絞りに使われる生地よりも硬いため小さく折って粒を作ることが難しく、また薄い生地は絞る加減によって生地が破れてしまうため、1400個の小帽子を制作するには慎重な作業が求められました。現代の着物の制作現場は価格低下を求める声を受け、その制作工程は職人の手から機械へと変わりつつあります。そのようなことが職人が技量を発揮できる場を狭め、長きに亘り受け継がれてきた技術や美意識が途絶えてしまう危機に直面しているのが、今の京都の染織現場です。当協会では日本の染織文化と技術を守り継承するため、染織祭衣装を通して、今後も引き続き衣装制作に取り組み、染織の現場を発信していきます。
令和3年6月、初めて旧衣装と対面。皆様、お疲れさまでした。 |