インターネットミニ染織講座
衣装復元制作・江戸時代初期2号(刺繍下絵)
12.刺繍下絵
刺繍の工程です。刺繍とは布や革といった素材に、刺繍糸や刺繍針などを用いて装飾を施す技術です。今回は刺繍に入る前の準備として、刺繍の下絵を描く工程を見学させて頂きます。
今回作業してくださるのは、京繡すぎした 後藤亜衣子さんです。以前、桃山時代6号の復元衣装制作でお世話になりました、京繡すぎした 杉下晃造さんのお弟子さんです。今回は技術継承の観点から杉下さん指導のもと、後藤さんに作業をおこなって頂きます。
江戸初期2号 旧衣装刺繍(一部) |
刺繍下絵の作業で主に使用する道具は筆、胡粉、乳鉢、乳棒、絵具皿、溶液、文鎮です。
筆、乳鉢、乳棒、絵具皿 | 溶液 |
胡粉 | 文鎮 |
今回は、旧衣装から写し取った下絵を元に新衣装に下絵を入れていく作業を見せていただきます。
最初に、下絵と新衣装の柄と線を合わせます。きちんと合わせた後、文鎮で固定します。今後の刺繍作業にて模様などにズレが生じないよう、正確に合わせていきます。
文鎮を置いて固定する |
固定が完了した後、下絵に用いる胡粉を溶いていきます。
胡粉とは、貝殻から作られる白色の顔料です。今回はこの胡粉で下絵を描いていただきます。絵具皿に、水とふのりの機能を持った溶液を少量ずつ取り混ぜていきます。ふのりとは海藻の一種であり、昔から天然の糊としても用いられ、生地に胡粉を定着させる役割を持っていますが、入手が難しくなってきているとのことで、現在はこの溶液をふのりの代用品として使用しているそうです。
胡粉を乳鉢と乳棒ですり、とても細かくなったら絵具皿に移して混ぜ合わせます。下絵の線に適した濃さになるよう、水や胡粉を足して調節を行います。
水差しで少量ずつ水を加える | 胡粉を何度も細かくすっていく |
水、溶液、胡粉を混ぜ合わせる | 濃さを調節する |
筆を用いて、下絵の線をなぞるように描いていきます。筆を持つ手の下にクリアファイルなどを敷いておくことで、汚れ防止だけでなく手を動かしやすく描けるのだそうです。下絵が見えづらい染色部分については、ガラス張りの作業テーブルの下から電球で照らすことで、生地越しでも下絵の線が見えやすくなります。
筆で丁寧に下絵を写していく | 暖色の電球を使う 台座は糸巻き |
動画でみてみましょう。
胡粉で描かれた線は、光の反射や生地の白色と同化して、すぐには目視が難しかったのですが、乾いていくにつれ胡粉の白色が見えるようになりました。後藤さんは「作業箇所を見失ってしまったときは作業テーブル下の電球をつけたり消したりして確認しています」とおっしゃっていました。この細い白色の線を頼りに刺繍が施されていきます。
慎重に描く | 乾くと少し白色が見えやすくなる |
完成
作業前 | 作業後 |
細やかな柄のひとつひとつを、筆と胡粉で丁寧に写し取っていく作業はとても大変であり、下絵の紙を作る作業にも長い時間がかかったとお伺いしました。その作業を黙々と行う後藤さんはじめ職人の方々の集中力と仕事の丁寧さに、尊敬の念を覚えました。美しい刺繍にはこの丁寧な準備作業が必要であり、刺繍職人の方々の繊細な手仕事の一部を見学できたことに感動しています。
この日の工程は、
→下絵と新衣装の柄を合わせ、文鎮で固定する |
次は刺繍の作業です。