インターネットミニ染織講座
衣装復元制作・江戸時代初期2号(仕立て)
14. 仕立て
仕立ての工程です。仕立てとは生地を縫い合わせ衣服にする、縫製の作業になります。着物の仕立ては、柄の合わせや丈の調節など、とても慎重かつ丁寧な作業が求められます。
今回作業していただくのは、一級和裁技能士である仕立て屋 千浪 坂本多寿子さんです。和裁技能士とは、都道府県知事が実施する和裁に関する試験を突破した方が取得できる国家資格です。
旧衣装を見ながらの作業 |
仕立ての作業で主に使用する道具は針、糸、こて、くけ台、かけ針、文鎮です。
針、糸、かけ針 | こて |
くけ台 | 文鎮 |
今回の作業では、主に身頃の肩山と袖山の柄を合わせる作業、下前の衽を縫う作業を見せていただきます。
最初に見せていただくのは、身頃の肩山と袖山の柄を合わせる作業です。合わせる箇所は衣装の右肩にあたる部分です。旧衣装を見ながら、施されている竹垣や団扇などの模様をしっかりと合わせ、縫う場所を決めるための大切な作業になります。
ここでは、わかりやすく身頃を生地A、袖を生地Bと表現して説明します。
身頃の肩山となる生地Aに付けた糸印(縫い合わせる場所の印)に、袖山となる生地Bをあわせます。このような合わせ目のことを「合い口」と言います。合い口を合わせることは、柄続きを良くし、きものを美しく仕上げるために重要な手順のひとつです。
糸印に合わせて確認する |
合い口を確認できたら、次に縫う準備をします。まず、合い口の柄に合うように、袖になる生地の端の歪みを見ながら、真っ直ぐにした際にしわにならないよう直線の印をつけます。生地の端はもともとは真っ直ぐでしたが、染料や金彩、刺繍といった加工や、加工を行う際に生地を伸ばすために用いる、伸子といった道具の影響で、よれてしまう部分が存在します。そのため、端の部分を調節しながら直線をとる必要があります。
生地の端部分の歪み |
直線をつけるために、そこで坂本さんが使われていたのが厚紙です。厚紙を生地の上に置いて文鎮で動かないように固定し、厚紙をはさみこんで捲り、裏側からこてを当てて、折り目を付けます。この方法により、よれることもなく生地Bに直線の折り目をつけることができ、合い口を正確に合わせることができます。こういった合い口を合わせるための方法は、作業される和裁技能士の方や、教わる先生などによってさまざまなのだそうです。
生地Bに厚紙を当てる | 厚紙をはさみ、こてを当てる |
厚紙の効果で生地Bに 直線の折り目がつく |
生地Aと生地Bの合い口が合う |
次に見せていただくのは、下前の衽(おくみ)を縫う作業です。
下前は、きものを着るときに下側になる部分のこと、衽は前身頃に縫い付ける半幅の布のことです。衽は「おくび」とも呼ばれます。
こちらも、柄の合い口を確認できたら、まち針で生地同士を固定します。その後、くけ台、かけ針を使って縫いやすいよう、たわむことのないように生地の片方を浮かせます。くけ台の「くけ」は「絎」と書き、「生地を縫う」という意味を持つ漢字です。縫う際は、裏表を均等に縫う「なみ縫い」、生地のほつれや破れなどが起こらないよう補強する「閂止め(かんぬきどめ)」など、縫い方や留め方を変えて縫っていきます。
かけ針で生地を挟む |
生地を縫い合わせていきます。左手で生地を持って、くけ台と左手で生地を張るように持ちます。右手で針を持ち、生地に針を刺したら左手の生地を動かして針を進めていきます。
動画で見てみましょう。
つけた印に合わせ、直線に手早く縫い、最後はこてを当てて縫い目を整えます。針でなく生地を動かす縫い方に思わず見入っていたところ、直ぐに縫い終わり、坂本さんの熟達された仕事に感嘆しました。
仕立ての際に坂本さんが徹底されていることは「背と衽の合い口を合わせる」ことだそうです。また、仕立てる前にお客さんのサイズに正確に合うか、全て確認してから作業に入られるそうです。今回のこの復元衣装制作の際も、最初に一度友禅などの作業に入る前に、旧衣装にあわせて生地に糸印を付けて下さっていたそうで、徹底されたお仕事に頭が下がります。
作業の様子 |
仕立ての工程の見学にお伺いしたのは今回が初めてでしたが、坂本さんのとても丁寧な仕事から、復元衣装制作のために作業いただいた、様々な職人さん方の手仕事によってきものの形になる様子を拝見し、改めて技術継承の大切さを考える機会となりました。仕立てができる人は昨今少なくなっていると聞きますが、きものを作る上で、今まで拝見してきたお仕事同様、途絶えてはならないお仕事であると再認識しました。
この日の工程は、
→肩山と袖山の合い口を確認する →合い口を確認して留める |
ついに完成です。