<スタッフ紹介>

        北川学芸員とその助手

    

 

  

 

 

時代衣装の構成と使われた技術についてわかりやすくご説明します。素人撮影のため見辛い箇所があるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

ご質問・ご要望はまで。

 

 

インターネットミニ染織講座

衣装復元制作・桃山時代4号染め分け(帽子絞り)

5.染め分け(帽子絞り)

青花で描いた線を消す花抜きの作業を終えた生地が、再び伝統工芸士・山岸和幸さんのもとへ戻ってきました。生地の染めない箇所を防染するため、帽子絞りを施していきます。


糸入れでは染めない箇所の輪郭線を波縫いしました。今回は染めない箇所をビニールでカバーリングして染色時に色が入ることを防ぐ作業を帽子絞りというやり方で行っていきます。
まず輪郭線の終点となる部分2箇所の糸をほどき、結び合わせます。次に始点となる2箇所を1箇所づつ糸を器具にかけて引っ張り、生地を手繰り寄せて絞っていきます。糸を引っ掛ける金具のついた紐を腰に巻き付け、終点の結んだ糸を引っ掛けます。

終点となる2箇所の糸を結ぶ 始点となる糸を器具に引っ掛ける
糸を引っ張って絞り寄せる 終点の糸を腰の金具に巻き付ける

 

始点の糸は器具に、終点の糸は腰の金具に引っ掛けたので、これで両手が使える状態になりました。両手を使い、絞った糸の周辺表裏に水をかけて湿らせ、生地が重ならないよう平らにならしていきます。湿らせるのは生地を動きにくくするため。乾燥したままだと生地が滑りやすく、重なることで隙間が出来てしまいます。水にはカビ防止のために少量の防腐剤を混ぜています。前述したように生地に凹凸ができるとそこが隙間になり、染料が入り込む恐れがあるため、生地を平らにならす作業は慎重かつ丁寧に進めていきます。山岸さんは失敗を最大限防ぐため、念には念を入れていつも4回繰り返すのだそうです。生地を平らにならしたら、更に慎重を期すため防染効果のあるふのりを刷毛で表裏に塗っていきます。

 

水で生地を湿らせ滑りを防ぐ 絞った糸の周りの糸をならしていく
ふのりを塗って防染する 塗り残しのないよう丁寧に塗る

 

次に芯を入れます。生地の幅で芯の大きさを決め、絞った糸に沿って芯をあて、生地を包みながら転がして糸を締めていきます。ここで使う糸は、最初は青い綿糸、仕上げに染まりにくいポリプロピレンの糸を使用。隙間がでないよう、力を入れてしっかりと巻いていきます。
ここで巻き始めと巻き終わりの間に隙間ができました。少しの隙間ですが、生地の高さと芯の高さに差ができることでそこが隙間となり、染料が入り込む可能性は否めません。失敗に繋がる可能性は全て取り去りたいので、細かく切ったティッシュペーパーで隙間を埋め、平らにして糸を巻いていきます。3回糸を巻き、次に糸を上にあげて張った状態で締めながら巻いていきます。最後は締めた糸に引っ掛けて切ります。こうすることで染色後の糸をほどきやすいようにしています。

 

 

絞った糸に位置を合わせ芯を巻く 赤線の部分が生地の隙間
隙間にティッシュを挟み糸を巻く 防染効果のあるポリプロピレン糸で巻く
糸が重ならないようしっかりと 糸の終わりは巻いた糸に引っ掛ける

 

芯の頭部分にビニール被せて巻いていきます。芯の大きさからビニールの幅を計算し、適度な長さに切ります。斜めから入れると被せやすいのだとか。ここでの糸は湿った麻の撚糸で、芯の大きさから判断し、5本に撚った16番手のものを使います。小さい芯には撚糸の数が少ないものを選び、使う糸の太さで柄が崩れないように調整していきます。締める糸に使う種類は綿と麻が主流。ポリプロピレンを使うのは山岸さんオリジナルです。麻は強く、よく締まるためすべての糸は麻だけで賄えますが、近年麻糸の値段が高騰しているため、綿と使い分けをしているそうです。麻糸で締める時にはギッ、ギッという音が。しっかり締まっているのがわかります。芯の部分を糸で巻いたあと、頭の部分を糸で縛り、適度な長さに切って完成です。最後は芯の裏側を見て点検します。

 

ビニールを適度な大きさに切る 芯の上の部分の生地を入れる
水に浸した5本撚りの麻糸 先端を器具に引っ掛ける
麻糸で巻いて強く締める 上の口を締める
隙間が出来ていないか最終点検 出来上がり

 

 

 

動画で見てみましょう。


 

染めない箇所に巻くビニール。昔は和紙や竹の皮、古くは昆布を使っていたこともあるのだとか。天然素材ゆえのアクが生地に移ったり隙間が出来て染料が入り込んだりして不完全な絞りも多かったそうですが、昔は「絞りとはこういうもの」という意識が定着していて、問題にはならなかったそうです。現代は完璧な仕上がりが求められるため、失敗は許されず、大変厳しくなったとか。そのような中で、丈夫で気密性の高いビニールの出現は、作業効率を一層高めるものになりました。
山岸さんが使っておられるビニールは、更に安全を期すため二重になった特注品。しかし最近になって高齢の職人さんから「もう作れへんわ」と言われてしまったそうです。「じゃあ今後どうするんですか?」とお伺いしたところ、「無くなるものは仕方ない、なんとか工夫します」と仰っておられました。職人精神を垣間見たような気がします。

 

中が二重になっているビニール 芯は絞りにより厚みやサイズが異なる

 



この日の工程は、

→下絵に沿った糸を引き絞る
→水で湿らせてほぐし、更にふのりを塗る
→芯を入れて円状に丸め、綿糸で締める
→染めない生地部分を筒形のビニールに詰め、麻糸で締める
→ビニールの口を麻糸で締め、余分な部分をカットする


次は染色の作業です。

 

 

 

 

 

 
 
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