<スタッフ紹介>

        北川学芸員とその助手

    

 

  

 

 

時代衣装の構成と使われた技術についてわかりやすくご説明します。素人撮影のため見辛い箇所があるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

ご質問・ご要望はまで。

 

 

インターネットミニ染織講座

衣装復元制作・桃山時代4号(染色)

6.染色

染め分けの帽子絞りが終わり、染色の作業です。この作業を行って下さるのは、たきもと染工 瀧本勇さんです。今回の衣装の地色はオレンジ色ですが、表面の色は退色している可能性があるため、過日の打合せで衣装の内側の色に合わせることが決定しました。藤井絞さんから渡された指示書にある小さな色見本をもとに、色を合わせていきます。


まず、色見本をもとに染料を調合します。粉状の染料をスプーンのようなものですくい、網目のついたザルに入れていきます。始めから色をばっちり合わそうとすると、例えば濃すぎた場合は直すのが大変なので、始めは少なく、染まり具合によって徐々に染料を足していきます。お湯が入った釜に最初に塩を投入し、ザルを入れ、染料を溶かします。塩を入れるのは、塩分の作用により染料が生地に染み込みやすくなるためなのだそう。しかしあまり早く染み込んでもムラが出たりする場合もあるため、加減しながら加えていきます。

先日、山岸さんに作業して頂いた帽子絞りの生地は、水が入った釜の中に浸して準備されていました。この釜の中の水は水道水のため、酸を入れて染色の妨げになるカルキを中和させています。
生地を染料の入った釜に入れ、手早く混ぜていきます。釜の中の温度は約70度。ゴム手袋の中に更に綿の軍手を付けて熱さを緩和します。綿は熱伝導を悪くするのだそうです。
色が馴染んだら釜から上げ、確認する箇所をドライヤーで乾かし、乾燥した状態で色見本の色と合わせます。

 

 

染色促進には塩と酸性の2種類を使う 染料の吸い込みを促すため塩を入れる
粉状の染料を調合しザルに入れる 釜に染料を入れてよくまぜる
水に浸された生地 染料の釜に投入
手で混ぜて染料を馴染ませる 色が馴染んだら釜から上げる
色を確認する箇所を乾かす 色見本と合わす

 

色見本とばっちり色が合うまでこの作業は繰り返されます。作業時間が長いほど釜の温度はどんどん上がって酸性に変化していくため、色馴染みを緩やかにするため硫酸アンモニウムを加えて調整するなどコントロールしながら色の濃度を徐々に上げていき、最終的には5回繰り返して色を合わせました。

動画で見てみましょう。


染め始めは色を吸い込ませるために塩や酢酸を入れました。徐々に濃度を追加していき、釜の温度に気を配りながら適切なphを保つため硫酸アンモニウムを加えて調整しました。染色作業は化学の知識が必要であることを伺い知りましたが、何より驚いたのは、これらの分量はすべて長年の経験からくる目分量で行われているということ。「やり始めの頃は、親父に色を入れてもらっていました。染まった色を見て、何が足りないのかを覚えていく。この積み重ねです」。ここまで出来るようになるには最低10年はかかったのだそうです。
染まった生地は余計な染料を取り払うため、流水で何度も洗います。水に色が付かなくなったら、生地を専用の脱水機にかけ、乾燥させて完成です。

 

硫酸アンモニウムと塩 酢酸など染色速度を調整する薬品
染めた直後の生地。水が染まっている 何度も水洗いを施す
昭和50年代の脱水機を現在も使用 出来上がり

 

 

瀧本さんは52年間この仕事に従事されておられますが、後継者はいらっしゃらないそうです。「この仕事は波があって、あまりいいことがなかったからね」と瀧本さん。同業の方々もほとんど後継者は居られないのだとか。しかし作業工程を見せて頂いたこの日も、ひっきりなしにお仕事を持ってお客さんが訪れていました。いつまでもお元気で、長く続けていって頂きたいと思います。



この日の工程は、

→見本色に合わせて染料を調合し、釜に投入する
→前もって水に浸しておいた生地を釜に投入する
→染料と生地を馴染ませるため何度も釜の中で混ぜ合わせる
→生地を釜から上げ、ドライヤーで乾かした箇所で見本色と照らし合わせる
→見本色と合わない場合は再び染料を追加調合し、上記作業を繰り返す
→見本色と合致したら生地を水に浸し、流水で何度も洗い余計な染料を落とす
→脱水機で水分を抜く
→乾燥させて、出来上がり


次は帽子絞りの糸を解く、ほどきの作業です。

 

 

 

 

 

 
 
京都市下京区四条通室町東入函谷鉾町78番地
京都経済センター6F