インターネットミニ染織講座
衣装復元制作・室町時代9号(糸入れ)
4.糸入れ
糸入れは、染めるところと染めないところを分けるため、下絵に描かれた柄の線に沿って糸で縫っていく作業です。糸入れは染め分けの準備作業で、この工程を行って下さるのは伝統工芸士の山岸和幸さんです。
まず針に糸を通し、下絵に描かれた線に沿って均等な間隔で縫っていきます。このとき針は動かさず、生地を動かしていくのがポイント。波をうつように縫うことから「波縫い」と呼ばれています。大きい模様から先に縫い、小さい模様はあとに縫います。これは作業を円滑にするための工夫だとか。縫い糸は通常白の木綿糸を用いますが、小さな模様の輪郭線は青色の糸で、大きな模様の輪郭線は白色の糸を用いて縫っていきます。これは室町5号と同様、糸の色を変えることで模様の見落としを防ぐために行われます。室町9号の模様には、波を表す線が描かれており、この線には平縫い絞りが施されます。
下絵 | 下絵の線に沿って針を入れる |
帽子絞りと平縫い絞りの糸入れ | 下絵と糸入れ |
動画で見てみましょう。
山岸さんには、桶を用いて行う染め分け技法(桶絞り)についても教えてもらいました。桶絞りは桶の口の周囲に染める部分の生地を外に出して並べ、染めない部分は桶の中に入れ蓋をかたく締めて、桶ごと染料液に浸して染め分ける技法です。用いる桶は染める前日に水に浸しておきます。これは木に水を含ませることで余計な染料が入ってこないようにするためです。桶の材料はひのき。ひのきは水に強く油を含んでいることから桶絞りの桶に最適なのだそうです。桶は京都で製造されていましたが、今はもう作る人は居なくなったため、染屋さんでは今ある桶を自分たちで修理しながら使っているそうです。桶は色によって使い分けるため複数必要になりますが、桶職人が居ない現状で今後の仕事に支障がでないのでしょうか。実は桶絞りにかわる技法として、ビニールを使って染め分ける蛸帽子が今では主流になっているのだとか。「桶は水を含むと相当な重量になるので、高齢の職人の負担になっていました。蛸帽子の登場により負担が軽減されたのではないでしょうか」と山岸さん。それでも桶絞りでないと出来ないこともあるそうで、桶絞りに必要な針打ちなどの高度な技術は継承され、現在もなお日々の作業で使われています。
桶(奥は桶の中)水を含んでなくても重い | 染色後の蛸帽子(参考画像) |
この日の工程は
→下絵の線にそって糸の長さを決める |
次は本座絞りの作業です。