インターネットミニ染織講座
衣装復元制作・桃山時代6号(金彩)
7.金彩
桶絞りの作業を終え、金彩の作業です。作業を行って頂くのは伝統工芸士の田中金彩工芸 田中禎一さん。まずは金彩の部分の型を制作するところから始まりますが、手彫りでは数か月かかってしまうため、今回はスキャニングして模様のデータをとっていきます。型を制作するのは叶V田 吉田尚史さん。手彫りならではの微妙な違いを再現するため、デジタルの自動連続(いわゆるコピペのようなものでしょか)は使わないように模様ひとつひとつをすべて反映するよう指示し、図案が出来上がってきました。この衣装の模様を忠実に再現するため、型の厚さを調整するなど細かな打合せをします。
遠目では同じ形だが、実は微妙に違う | 手彫りならではのゆらぎを今に再現 |
型が出来上がり、作業開始 |
ではいよいよ作業です。
軽く粘着のある板の上に生地を貼ります。シワやゆがみが無いようチェックしながら丁寧に貼り付けます。
貼り付けたら、マスキングテープを該当箇所に貼り付けます。
シワのないよう貼り付け | マスキングテープの無い頃は硫酸紙を使用 |
マスキングテープの無い時代は硫酸紙を使っていました。米を潰して貼り付け固定していましたが、それでも不安定で、形通りに切る時には生地を傷つけないようにビニールを敷いていたのだそうです。
金彩を入れる箇所のマスキングテープを小刀で切って外していきます。
形に沿って小刀を入れる | テープだけを切っていく |
動画でご覧ください。
今回、衣装の模様に使う金箔は最高の本金です。本金とは24金(9999)を言いますが、基本的に金箔は24金では作れないそうです。金をベースにして銀や銅を混ぜて作られるそうですが、ここで使う金箔は9975という純度の高い金箔で、田中さんも使うのは実に5年ぶりとのこと。
金の純度が下がるにつれて金色の色合いが微妙に変わってきます。特に銀の含有量が多い金箔は要注意で、経年劣化により黒い点々があらわれてくるのだとか。次代に引き継ぐ衣装にそのようなことがあってはならないので、混ぜ物の少ない最高の金箔を用意して下さいました。
手前─銀の純度の高い金箔、奥─銀は少量だがすずと銅が混ぜられたもの。指差し─金の純度が最も高い金箔。色目がそれぞれ違う。 |
そして金箔を貼り付ける糊ですが、これも特別に配合して下さった糊を使います。実物衣装に使われた糊は、当時主流であった米糊。米糊の良いところは箔の光沢がそのままに生かされることですが、悪いところは仕上がりが固くなることと、害虫やねずみが好むことです。長期間保管する衣装では丈夫さも求められることから、特別配合の糊は米糊をベースに、光沢に影響が出ない程度に少しだけ樹脂を混ぜて作られています。現代の糊は樹脂が主流で、仕上がりは柔らかいものの光が沈んで発色が悪くなってしまうのだそうです。特別配合の糊は、まさに米糊と樹脂のいいとこ取り。昔と現代の技術の融合です。
特別配合の糊 |
では作業です。模様を付ける箇所に型を置き、糊を置いていきます。糊を置く加減により模様の表現がかわってくるため、ここで最初に打ち合わせした型の厚さが重要な意味を持ってきます。糊を置いたら型を外し、金箔を貼っていきます。
型に糊を置いていく | 糊を置いた箇所に金箔を置いていく |
動画でご覧ください。
金箔を置いた状態で乾くまで置いておき、その後刷毛で余分な部分を払って模様を出します。
余計な金箔を刷毛で払う |
動画でご覧ください。
金彩の工程はこれにて概ね終了となりますが、最後に生地を仮絵羽に仕立て、身頃にまたがる柄部分の模様の流れを合わせる作業を行います。
田中金彩工芸は昭和2年創業、もとは糊置屋さんからはじまりました。田中さんで3代目で、現在は奥様と2人の息子さんで家業を切り盛りされておられます。この日も糊を置いた型を田中さんが素早く奥様に手渡し、奥様がすぐに洗浄されるなど、抜群のチームワークにより作業が滞りなく進んでいきました。
この日の工程は、
→生地を台に貼り付ける。 |
絞り付近は生地がよれるので難しい |
次は刺繍の作業です。