インターネットミニ染織講座
衣装復元制作・桃山時代4号(金彩)
8.金彩
ほどきの作業が終わった生地は、染料の色を定着させる蒸し、余分な染料を除去するための水洗い、生地のシワを蒸気に当てて伸ばす湯のしの作業を行い、再び新品のような生地になって金彩の作業にうつりました。今回作業を行って下さるのは、道家金彩工芸 伝統工芸士の道家康伸さん。道家さんは京都迎賓館藤の間の装飾にも携わられました。
蒸し・水洗・湯のし後の生地 |
桃山4号の金彩は、摺箔と摺りはがしの2つの技法が使われています。摺りはがしとは、極限まで薄く張った糊の上に金箔を置き、刷毛で摺って生地の模様を浮き立たせる技法。通常、友禅の上に金箔を貼って箔を摺りはがし、友禅の柄を浮き立たせる表現に使われたそうです。しかし極限まで薄く糊を張るということは、箔が剥がれやすくなるため、摺りはがしには高い技術力が必要になります。現代ではそのような凝った表現を求める声が少なくなったことから、摺りはがしが出来る職人さんは減ってしまったそうです。
今回はスケジュールの都合で摺りはがしの作業は見られませんでしたが、工程は難解で、何度も説明を受け、理解を深めることができました。
摺りはがしが施された雲形。綸子地の柄が浮かび上がっている。 |
では摺箔の作業です。旧衣装から蔦文様の柄を紙に写し、更にシルクスクリーンに写して型を彫り、その型を生地に写して糊を張り、金箔をのせていきます。ここで使う金箔は京都迎賓館藤の間にも使われた純度99.8の本金。純度100だと箔にならないため、少しだけ銀を入れて箔が作られます。
生地に貼った金箔を上から綿でトントンと叩いて押し当て、定着させます。糊が乾くまで1時間程待ち、刷毛で余分な金箔を払います。
旧衣装から柄を写す | シルクスクリーンの型を生地に写す |
糊を張っていく | 型を外し、金箔を貼る |
糊部分に全面に貼っていく | 綿を押し当て糊が乾くまで1時間程待つ |
余分な金箔を払う | 完成 |
動画で見てみましょう。
金箔を貼る糊は、昔ながらの箔下糊を用います。箔下糊は餅粉を溶いたものを寝かせて、沈殿した粘液を加熱して粘度を上げて作ります。天然原料なため、生地が虫害にあわないように、最近では樹脂を少しだけ混ぜて用いることが多いそうです。現代では性能の良さから樹脂の糊を使うことが主流になってきていますが、伝統的な糊の製法や技法を継承していくことも金彩職人として非常に大切なことだと道家さんはおっしゃっておられました。
さて摺箔で使った金箔の破片は最終的にどうなるのでしょう。
金箔の破片は膠で溶かされ金泥となり、墨描絵ならぬ金泥描絵の材料になるそうです。また金の破片を更に細かくし、生地に蒔いて装飾にするなど様々な加工で活用されていきます。最後に、道家さんが金泥を付けた筆でサラサラと柄を描いて下さいました。卓越した技術と優れた美的感覚を持つ伝統工芸士さんならではのスゴさを垣間見た気がします。
金泥を使って下絵なしで描く | 筆と刷毛だけを使って表現 |
この日の工程は、
→旧衣装から柄を紙に写し、更にトレーシングペーパーに写して型を彫る |
次は刺繍の作業です。