<スタッフ紹介>

        北川学芸員とその助手

    

 

  

 

 

時代衣装の構成と使われた技術についてわかりやすくご説明します。素人撮影のため見辛い箇所があるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

ご質問・ご要望はまで。

 

 

インターネットミニ染織講座

衣装復元制作・江戸時代初期2号(撚糸)

3.撚糸

衣装の生地を作る作業に入っていきます。衣装の内側から採取した生地見本を、京都府織物・機械金属振興センターで分析したところ、「一越縮緬」(ひとこしちりめん)の構造に近いことがわかりました。今回この生地を制作して下さるのは、丹後ちりめんの産地である京都府京丹後市の川八工場(弥栄町)さん。このたび川戸洋祐さんにご説明を伺います。
織物は経糸は一本、二本と数え、緯糸は一越、二越と数えます。一越縮緬は緯糸一本で織られた縮緬で、シボが細かいのが特徴。用途は広く、現代では着尺から帯、和装小物、襦袢などに用いられています。

現代の縮緬作りに使われている糸は、縮緬の特徴であるシボを作ることを目的とした、人為的に作られた糸が使用されています。何種類かの撚り糸が組み合わさって1本の糸を構成し、その構成がシボを作り出す(シボに見える)というものです。そのため、糸の見た目はガリガリしていて、撚りをかえすとまとまった糸がほぐれていきます。

    現在の縮緬に使われている糸    撚りをかえすと糸がほぐれる

 

こちらは約2000〜3000回の撚りをかけた糸。見た目は普通の糸のように見えますが、精練をかけると糸そのものが縮んでシボができます。古来からある縮緬はこの原理を利用してシボが作り出されています。この糸は伸縮性や発色性は良いのですが、水で縮むため、染色が難しいなど取扱いに難点があり、現在では上記のような、糸の形状によりシボができ、水で縮みにくい糸が主流になっています。今回復元する衣装の縮緬は、八丁撚糸機で作られた糸が使われています。

        八丁撚糸  なめらかだが精練で縮んでシボになる

 

では撚糸の準備です。
まずは緯煮(ぬきたき)です。沸騰したお湯の中で、金枠に巻き取られた生糸を煮ます。煮ることでセリシンがゲル化して水撚り(八丁撚糸)が可能になります。煮る時間は糸の太さで変え、細い糸ほど短く、太いものほど長く煮ます。巻き糸量は変わらず、およそ300g前後を、食パンほどの柔らかさになるようにします。


緯煮

八丁撚糸機にかけるため、金枠の糸を管に巻いていきます。張力を均等にかけるよう、3箇所に糸を通し、指で加減を確認しながら巻き取っていきます。基本的な作業ですが、実はこの工程で撚糸の出来が決まる重要な作業なのだそうです。

 

金枠の糸をセッティング 糸に色をつけ撚りをかける方向の目印に
3箇所に糸を通す 上(矢印)で個別に張力を変えていく
下(矢印)で全体に張力をかける もとの方は張力がかかりやすい
指で張力を確認 糸を巻き取る
   


動画で見てみましょう。

 

 

 

巻いた糸を撚糸機に移して撚りをかけていきます。川八工場では2種の撚糸機(丹後式木製八丁2機、三輪式八丁3機)を所有されておられ、糸によってどの撚糸機が良いか使い分けをしています。まずは昔からある八丁撚糸機を見て行きましょう。

 

八丁撚糸機

八丁撚糸の「八丁」は長さや面積を表す単位を意味しており、上部の大きな輪が太鼓の八丁と同じ大きさであることからこの名前がついたと言われています。この撚糸機は、どんな太い糸でも撚ることができるのが長所ですが、短所は巻き取りの直径が巻き始めと巻き終わりでは変わってくるため、 撚り始めと撚り終わりに差が出てくること。そうするとシボの大きさが異なってしまい、シボムラができてしまうため、巻き糸の糸量を少なくする必要があり、効率が悪いのだそうです。セリシンが乾かないよう、稼働中はずっと水がしたたり落ち、糸を濡らしています。

 

    太い糸が撚れるのが特徴     糸を静輪(重り)にセットする
  糸が太いため静輪も100匁の重さ   巻き取った糸。撚りがかかっている

 

八丁撚糸機が稼働する様子を動画で見てみましょう。

 

  

 

 

衣装用の糸は細いため、別の撚糸機を使って撚っていきます。

        撚糸機         緯煮した糸
   糸を取り付け、糸巻に巻いていく    数ヶ所に糸を巡らせ張力を調整する

        撚りをかける         静輪で張力の加減をみる

静輪が上がると、短い間にたくさん撚りが入り、これが下がると撚りがあまくなります。静輪の変動は少ない程良く、この加減は前述の緯煮糸の管巻きの状態が出来を左右します。衣装の生地は27中×3本の細い糸なので、10匁(35gほど)の軽い重りを掛けて、巻き始めは手でひっぱりながら調整していきます。静輪は糸がたるまないようにするための重りの役目で、重さは糸の太さによって変え、通常は1個、安定した撚りを得たい時は2個を繋げます。
巻きと静輪の重さで張力が決まります。この撚糸機は速度が変わらない限り、巻取りの速度はかわらないので、どれだけたくさん巻いても、最初と最後の撚りは変わりません。昔の八丁撚糸機のように太い糸は巻けなくても、安定して巻けるのがこの機械の長所なのだそうです。

 

動画で見てみましょう。

 






現代のきもの生地の主流である縮緬。時代のニーズに合わせて糸の開発が行われていたことを初めて知りました。同時に古来の縮緬も再現できる技術は健在で、それを担う若い後継者もおられます。しかし丹後産地を取り巻く環境は決して良いものではありません。縮緬の原点である撚糸機や織機は今はもう生産されておらず、廃棄される機械から部品を取って、修理しながら稼働されています。和装産業の低迷や職人の高齢化により、機屋はどんどん廃業に追い込まれ、300年続く丹後縮緬の技術継承が危ぶまれています。日本の伝統衣装であるきものが、日本では作ることができなくなる日がいつかくることは明らかで、文化のひとつを失う危機に瀕しています。現代の生活様式に日本の染織技術が取り入れられ発展するにはどうしたらいいのか、当協会が出来ることは何かを深く考える貴重な一日となりました。

溶けたセリシン。作業で手がツルツルに。
 

 


この日の工程は、

→糸を緯煮する
→緯煮した糸を管に巻き取る。
→撚糸機に管をセットし、張力を調整して撚りをかけて巻く
→完成


次は整経の作業です。

 

 

 

 

 

 
 
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