インターネットミニ染織講座
紕帯のできるまで(染めた生地に柄を入れる<刺繍>)
染めた生地の色を定着させる<蒸し・水洗・乾燥・湯のし>からの続きです。
4.
刺繍
前回の工程では生地の染色を行いました。ここからは生地に柄を付ける工程に移ります。紕帯の柄は「京繍」という京都で培われた刺繍の技術を使って制作していきます。紕帯の独特の仕立てにより、柄は片方ずつを丁寧に作っていきます。
(1)柄の下絵を描く
これから行なう刺繍の工程に欠かせないのが、柄の下絵の制作です。まずは白紙に柄を描き、それを生地の下に置いて胡粉を含んだ筆で直接生地に柄を写していきます。
胡粉は貝殻から作られる炭酸カルシウムが原料となっており、生地の色・種類により墨や金泥などが使われる場合もあります。
白紙に設計図となる柄の下絵を描く |
筆に胡粉を含ませる |
生地に下絵の柄を写していく |
(2)色の選定
刺繍に使用する糸は釜糸といい、およそ2,000〜3,000色の色のバリエーションがあります。釜糸は縒りをかけていない生糸を何本があわせたもので、平糸とも呼ばれます。
近年、釜糸を染める職人さんは減少しており、ここでも伝統技術の存続が危ぶまれています。
グラデーションで揃う豊富な色数 |
(3)生地張り
刺繍前の準備作業として、生地を刺繍台に固定します。これを「台張り」といい、「繍台張り」「角枠張り」「台枠張り」等の方法がありますが、要は生地を固定し適度に張ることで繍いやすい環境を作るための作業です。ここでは「繍台張り」で行なっています。
生地を固定し適度に張る |
(4)柄に刺繍を入れる
いよいよ柄に刺繍を入れていく作業にうつります。あらかじめ生地に胡粉で描いた柄に沿って、正確に針を刺していきます。時折下絵を確認し、バランスを調整しながらリズムよく作業が進行します。釜糸を取り替える時には撚り棒と呼ばれる板を使い、板の先端についているフックに糸を何重か掛けて、均等な長さにしたところで手早く針に通していきます。何本もあわせられた糸を針に通すため、刺繍針の穴は我々が日常的に使う針よりも大きく開いています。
胡粉で描かれた柄に針を刺していきます |
こんな感じです |
紕帯の柄である花びらの白色部分を刺していきます。
次に釜糸の色を替えて
花びらの桃色部分を刺します。
昭和6年制作のオリジナルの紕帯と同様、花のがくの部分にビーズをつけます。
出来上がり |
オリジナルと並べてみました |
遜色ない仕上がり |
今回刺繍作業をして下さったのは一児の母で30代の若い女性職人さんです。
お子さんが学校に行っている時間を刺繍の手仕事に充てておられるのだとか。
作業の成果が美しい形となって完成し、華やかなきものの一端を支えるこの仕事は大好きだと
おっしゃっておられました。
刺繍の世界は熟練した職人さんも多いですが、しっかりと若い方への次代継承がなされているようです。
刺繍の作業が終わると、仕立てを経て、いよいよ完成です。
<今回の道具>
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