<スタッフ紹介>

        北川学芸員とその助手

    

 

  

 

 

時代衣装の構成と使われた技術についてわかりやすくご説明します。素人撮影のため見辛い箇所があるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

ご質問・ご要望はまで。

 

 

インターネットミニ染織講座

衣装復元制作・桃山時代4号(下絵)

新型コロナウイルス感染拡大による打合せの断念>

 新しく取り組む衣装の復元制作については、前回の新衣装2点と同様、監修者である京鹿の子絞振興協同組合(以下「組合」)が選定した伝統工芸士の資格を有する、各工程の職人達が集まり、実物の衣装を見ながら作業の進め方や注意すべき点の確認等意思疎通をはかる打合せを実施して進めていく予定をしていましたが、令和2年4月7日新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発出され、外出自粛が求められる中での打合せの招集や生地手配などの先行作業が困難な状況になり、5月21日の宣言解除までは手つかずの状態が続きました。
解除翌日の5月22日、組合と当協会職員、職人への司令塔の役割をする藤井絞(組合員)が集まって実物の衣装を確認し、職人の選定確認、作業の進め方や注意すべき点、今後のスケジュールを検討しました。本来ならば職人達を招集すべきところですが、宣言解除といえどもまだ安心できる状況ではないこと、作業の遅れを取り戻すために一刻も早く前に進めていかねばならないことを踏まえた対応となりました。

 

 

3.下絵

下絵は染め分けや絞りの箇所を目印や模様で直接生地に描くことで、染め分けや絞りの職人がその目印にならって仕上げていくことができる、いわば衣装の設計図です。重要なのは生地を仕立てたときに、模様の位置が正確か、染め分け部分がちゃんと繋がっているか(合い口が合っているか)ということ。ある程度は仕立てで調整できるそうですが、合い口が合わないとバランスが崩れ、せっかくの装飾が台無しになってしまいます。「下絵」はこれからの作業を進める上で大変重要な役割を担っています。この工程を行って下さるのは伝統工芸士の後藤和弘さん(後藤絞画店)。桃山6号慶長小袖の下絵でもお世話になりました。


まず実物の衣装の上にトレーシングペーパーを置き、絞りの染め分け部分を片身ずつ部分的に鉛筆で写して型をとっていき、マジックで清書していきます。

 

トレーシングペーパーに染め分け箇所を写す

 

ポイントとなる所を記録する(刺繍の菱の数と衿周りの寸法)


この衣装は全体に大胆な染め分けが施されており、仕上がり時に柄をぴったりと合わせなくてはいけない箇所が多いのが特徴です。旧衣装の合い口はぴったりと合っている所がほとんどでしたが、一ヶ所だけ合っていない所がありました。これは新衣装には反映させず、きっちり合わせていきます。


合い口が合っている 合い口が合っていない

 

そしてこのたび衿付近に謎の白地が見つかりました。これは本来染色するべき箇所であった可能性が高く、後日詳しく調べることになりました。

 

右の衿下は染色されているが、左は白地になっている


それでは作業です。
仮絵羽になっていた生地をすべて解き、身頃ごとにわけて下絵を入れて行きます。作業台にトレーシングペーパー、生地の順に置き、生地が動かないように固定したあと、作業台の電気を点けるとトレーシングペーパーに描いた下絵が生地に浮かび上がります。この下絵に沿って生地に描いていきますが、何パターンか曲線を描き、その曲線に沿ってパンチング(規則的に空けた線状の穴)されたトレースを使って生地に点線を入れていきます。下絵の線をあえて点線にするのは、次の作業(糸入れ)で均等に針を刺す箇所が分かりやすいようにとの配慮からです。

 

作業台にトレーシングペーパーと生地を置く 曲線にパンチングしたトレースを置く
トレースには形状の異なる曲線が描かれている 青花液をつけた刷毛でトレースを摺る
下絵に合う形状をのせて摺る 生地に下絵が点線で写されていく

 

全ての下絵をトレースに写していくよりも、ポイントとなる線を何パターンか描いた部分的なトレースを使ったほうが早く仕上がり、間違いも無いのだとか。「こんな方法でやるのはたぶん僕だけ」とおっしゃる後藤さんですが、今まで工程を見せて頂いた職人さん達も、自分で道具を作ったりやり方を工夫されたりして、能力が最大限生かされるよう模索し、研究されておられました。常に研鑽していく姿勢と長年の経験の積み重ねが、高度な技術の確立に繋がっていくのでしょう。
この部分的なトレースの使い方ですが、下絵の線に合致した箇所をトレースから探し当て、微妙に角度を合わせながら沿わせ、刷毛で摺っていきます。一見簡単そうに見えますが、大変難しい作業です。

動画で見てみましょう。

 

ちなみに描く線がずれてしまった時は、筆に水をつけ、線になぞって馴染ませます。線を描くために使用する青花液が水で消える特性を利用した修正方法です。青花液には露草の花びらの汁を集めた天然の青花液と化学染料で作られた代用液があります。天然の青花液は作るのに大変な手間暇がかかり、需要の低迷も重なって作る人が減少し、高価なものになっています。一方で代用液は安価ですが紫外線に弱く、蛍光灯の光に反応して色が消えてしまうことがあり、制作に長期間かかるものには不向きなのだそうです。天然の青花液で描いた線は3.4年は持つため、制作年数のかかるものはそちらを使うなど、制作するものによって使い分けをしているそうです。

 

出来上がり 

 

 

小刷毛とニチョウ 下絵に欠かせない道具たち

 



この日の工程は、

→実物衣装に片身ずつトレーシングペーパーを置く
→えんぴつで染め分けの部分などをトレーシングペーパーに写しマジックで清書する
→トレーシングペーパーの下絵を生地に写していく


次は糸入れの作業です。

 

 

 

 

 

 
 
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