インターネットミニ染織講座
衣装復元制作・室町時代12号(染め分け)
4.染め分け
糸入れの作業を終え、染め分けの防染作業です。この作業をして下さるのは再び伝統工芸士の高木純一さんです。室町12号は緑、黄色、紫と全体に色が分かれ、それぞれに草花や石畳を絞りで表現した文様が入っています。更に中央部分には辻が花を表現する描き絵のエリアが広がります。それぞれの色や文様の区分を分け、染色と防染の境界を細かく作っていきます。
室町12号(実物) | 染分けの指示書 |
下絵の段階では、きものの形の仮絵羽でしたが、仮絵羽の状態では細かな作業がやり辛いため、ここでは一旦解かれて、前身頃、後身頃など生地のパーツになっています。でもこんなに細かく分かれてしまうと、どれがどのパーツだかわからなくなりますね。そこで下絵に描かれた青い線が頼りになってきます。どこの部分がどの色なのかは指示書にある番号に従い、生地のパーツにも同じように番号を振って次の工程である染めの作業でもわかりやすいようにしています。
3番は紫です。中帽子は石畳文様の箇所です。このエリアは紫に染めるという意味ですが、石畳は白色なので、その部分は染まらないように括って、上からビニールを巻き、防染しています。
染料が入らないように絞る部分のもとに芯を入れ、ビニールで覆って綿糸で括る。 |
この中帽子は衣装全体で数百個あるそうですが、これだけ括る場所が接近していると1時間に約100個程度しか括れないのだそうです。また括るのには順番があり、外側から内側に括っていきます。内側からの粒の重さで外側の柄の位置が微妙にずれてくるのを防ぐためです。
ビニールは筒状になっており、適度な大きさに切って使用する。 |
この衣装のように複数の色に染めていく場合は、まずはじめにどの色から染めるか順番を決めます。例えば1番目に染める色が紫としたら、紫以外の箇所はビニールで覆って括り、紫に染めた後は次に染める色のためにビニールや糸を外したり、それ以外のところを覆ったりします。染める色の順番によって防染の場所を変えていく、根気のいる作業です。
まずは石畳文様を防染するために中帽子を作っていきます。
石畳の箇所が染まらないようにその部分をつまみ、根元に芯を入れて適度なサイズに切ったビニールを巻いていきます。何度もしっかり巻くとビニールが密着し安定してきます。根元から先に湿った麻糸を手際よく巻いていきます。下絵の青い線が文様の境界線なので青い線が見えるようにしていきます。
作業を動画で見てみましょう。
中帽子を作る作業(動画)
染め分けには各色の境界となる箇所をしっかりと区切る必要があります。その箇所をただビニールで巻くだけでは位置がずれたり、糸が緩んで色が入り込んでしまう可能性があるため、芯を入れて生地を固定し、その上にビニールを巻いて湿った麻糸をしっかりと巻き付けることで、よりしっかりと防染することができます。
芯を入れて生地を固定するときも注意が必要です。まず染分け部分の境界線を直線に保ちます。その時近くに芯が入った中帽子がある場合は、芯の位置がずれないよう竹の棒などで押し込んで調整します。境界線に霧を吹いて生地を安定させ、ふのりをブラシでつけていきます。そして直線に沿うように芯を巻き込んでいきます。
広範囲の染めない箇所は大きなビニールで覆い麻糸で止める。 |
ビニールの中には大きな芯が。端は湿らせた麻糸で強く巻く。 |
作業を動画で見てみましょう。
柄の境界となる箇所に芯を入れる作業
防染のために覆うものは、今はビニールですが昔はアクを抜いて湿らせた柔らかい竹の皮を使っていました。アクを抜くのは竹の皮からでるアクにより生地が染まることを防ぐためです。小帽子、中帽子などの小さな箇所も竹の皮を適度に切って巻き、水で湿らせた糸を上から巻いていました。湿らせた糸を使うのは、水分を含ませることにより締まりが良くなり、強くしっかりと巻くことができるためです。
作業を動画で見てみましょう。
染めない箇所を防染するための作業(動画)
このように染め分けの防染はすべてが手作業で成り立っています。色や柄の配置を分析することから始まり、色が分かれる境界線でしっかりと防染し、今度は防染箇所を別の色に染めるために解いていく…熟練した技と根気のいる作業ですが、この手間があることによって、デザインの表現力が豊かになり、世代を超えて慈しまれるきものが誕生するのです。
この日の工程は、
→染める順番を決める。 |
次は染色の作業です。