<スタッフ紹介>

        北川学芸員とその助手

    

 

  

 

 

時代衣装の構成と使われた技術についてわかりやすくご説明します。素人撮影のため見辛い箇所があるかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

ご質問・ご要望はまで。

 

 

インターネットミニ染織講座

衣装復元制作・鎌倉時代1号(ほどき)

9.ほどき

 ほどきの工程です。絞りを施した生地の糸をほどいていく一見シンプルな工程ですが、仕上がりに影響が出ないように慎重な作業が求められます。

 今回の作業を行って下さるのは、糸入れ括りの工程から引き続き、伝統工芸士の山岸和幸さんです。2回目の染色を終えた新衣装が山岸さんのところへ戻ってきました。

 

ほどきの様子


 今回は、海松文様を括った糸を切り、ほどいていくところを見学します。

 ほどきの作業で山岸さんが主に使っている道具はペンチです。糸切りハサミを使われることももちろんありますが、糸切りハサミは鋭く、誤って生地を傷つけてしまう可能性もあるため、要所によってペンチに持ち替えて使います。

 

ペンチ 糸切りハサミ

 

 括った糸を切っていきます。まず、括り工程で作った結び目の反対側、糸入れ時に最初に作った玉結びをペンチで引っ張り、玉結びと生地の間に隙間を作ります。

 

海松文様に括っている糸 ペンチで玉結びを引っ張り、
隙間を作る

 

生地を持っていた手をつまむように持ち直し、またペンチで玉結びをつまんで内側から外にひねるようにして糸を切ります。

 

生地と玉結びをそれぞれつまむ 内側から外側にひねるようにして
糸を切る

 実際に見てみましょう。

 

 

 この時、括り工程で作った結び目を切らず、糸入れ時の玉結びを切った理由は、結び目には糸入れ工程の際に、空いた針穴からほつれた糸が巻き込まれている可能性があるからです。生地に近いところで結び目を作らなければならないことから巻き込みは防ぎようがなく、もし気づかずにペンチを使って糸を切ろうとすると、ほつれて巻き込まれた糸にも強い力が加わり、衣装の傷に繋がってしまいます。

 ほつれた糸の巻き込みがない糸入れ時の玉結びを切ることで、新衣装に傷が発生する可能性を下げ、また効率良く作業を行うことができます。


糸を通す前に結ぶので
巻き込まれない
ハサミを使った後は念入りに
生地の状態を確認

 

 生地に残った糸や結び目をペンチで引き抜いていきます。糸が既に切られているため、残った糸を引き抜く作業になりますが、先述したように時折糸入れ工程の際に空いた針穴からほつれた糸が、結び目に巻き込まれていることがあります。その時はペンチで結び目を軽く引っ張り出してから糸切りハサミでつぶすように切ります。新衣装に傷が入らないようにするために工夫を凝らし、慎重に作業を行っておられました。

 生地に残っていた糸をすべて取り除くことができたら作業は完了です。

 

 完成


完成

 

 糸入れや括りの工程と同様、膨大な作業量をこなす体力と集中力が求められるほか、衣装の傷など品質に関わる要素が大きく、慎重な作業を求められる工程でした。山岸さんは「糸入れや括りよりも、ほどく工程が一番緊張する」「もう1着同じものを作ってと言われたら体力的に難しい」とおっしゃっており、今回復元制作に取り組んでいる衣装の復元がどれほど手間のかかるものであったかを改めて知ることとなりました。

 後日全てほどき終わった新衣装を見せていただきました。絞りを加える前は13メートル程あった生地の長さが約6.4メートル程になり、約半分になっていました。絞りを施した箇所は絞りの跡と縮みが強く残っているため、この後蒸気を当てながら生地を延ばし、長さや幅を戻す作業である「湯のし」を行ってから、小袖にするために仕立てを行います。

 

ほどきが完了した新衣装 全体に絞りが入り、
生地の長さが約半分になった
湯のし完了後 旧衣装にあった染めムラも再現

 

この日の工程は、

→ペンチで糸入れ時の玉結びを引っ張って、生地と玉結びの間に隙間を作る
→生地をつまむように持ち直し、内側から外へひねるようにして糸を切る
→生地に残った糸を取る
→結び目にほつれた糸が巻き込まれていた場合、結び目をつぶすように
   糸切りハサミで切る
→生地に傷などが出来ていないかを確認する
→完成


 いよいよ完成です。

 

 

 

 
 
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